高齢者にとって「食べること」は健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上に直接結びつく大切な生活基盤である。このため少量で栄養価の高い介護食品を開発することは、高齢化社会における重要な課題の1つになっている。本研究は高齢者にとって適切な食感と、高い栄養価を有するユニバーサルデザインフーズ(介護食品)の開発を行うため、アミノ酸組成および調理性に優れている卵白を用いて新しいトロミ調製剤、ゲル化剤の開発を行うことを目的として進めている。 市販の卵白粉末を用いて濃度の異なる懸濁液を調製し、ホットスターラーを用いて加熱処理を行い、濃度の異なる卵白ゲルを調製することができた。また塩や弱酸(酢)の添加によってゲルの性状が異なることが示された。 調製したゲルの形成性や粘弾性は、ゲルに含まれる水分子の水和構造と密接に関連していることが考えられる。そこで分子科学的な観点から卵白ゲルの水和特性を明らかにするため、水の吸収スペクトルの測定が他の分光手段より容易に行える近赤外分光法を用いて、水和構造の解析を行った。その結果、7900cm^<-1>から4000cm^<-1>の近赤外波長域において、水に由来する2つのバンドが独立して観測できることが示された。特に5178cm^<-1>にピークを示すバンドは、温度上昇に伴い波数シフトと強度変化を示し、水和構造の変化を鋭敏に反映することが示された。このスペクトルの挙動は、純水の変化と異なることから、卵白ゲル特有の水和構造を反映していると考えられる。さらにこの知見を応用し、高い粘度を有する食品である餅について、加熱に伴う粘度増加のメカニズムを解析したところ、デンプン分子と水分子間における強い相互作用について知見が得られた。以上のことから、温度変化を行う近赤外分光測定は、様々な食品ゲルの水和特性の解析に有用であることが証明できた。
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