研究概要 |
黒糖焼酎蒸留残液は,廃液として取り扱われており,その処理が社会問題となっている。そのため,その有効利用を目的とし,残液の食品、栄養学的観点から検討を行った。残液中には,原料の黒糖由来の2価鉄,ポリフェノール,カリウム,メラノイジシ及び麹菌が生産するクエン酸と麹菌、酵母の菌体が含まれているのが特徴である。 これらの成分は,生体内における有効な生理作用が予測されるために以下の実験を行った。 1)鉄欠乏ラットに残液を投与すると,貧血の指標であるヘモグロビン,総鉄などが正常値まで回復した。2)脂質代謝への影響について,高コレステロール食に残液、粕を投与すると血清、肝臓のコレステロール、TGの上昇が抑制され,この原因は,糞中への胆汁酸とステロールの排泄増加による。3)糖質代謝への残液の効果について,自然発症糖尿病ラットを用いて検討した。2ケ月間の投与で,対照の血糖上昇値は106mg/dL,残液の場合は56mg/dLとなり,血糖の上昇を抑制した。4)血圧に対する残液の影響について,自然発症高血圧ラット(SHR)で実施した。2ケ月間の投与で,収縮期血圧が対照105mmHgの上昇,残液で94mmHgの上昇となり,残液は血圧に対して有効であった5)ヒトに対する効果を実証するために,毎日,残液を1ケ月間50mL飲水させ,飲水前と飲水後の血圧,体重測定,排便状況及び血液成分の測定を行った。特に,高脂血漿の被験者に対しては,動物実験の場合と同様に,コレステロール,中性脂肪の改善が認められた。以上の結果から,残液にはメタボリックシンドロームの予防と改善が期待され,その有効成分は,鉄,ポリフェノール,カリウム,メラノイジン及び麹菌が生産するクエン酸等で,これらが相互に作用したものと推察される。
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