研究概要 |
口腔内疾患による炎症や歯の喪失は,摂食、嚥下の機能低下のみならず全身疾患の原因となり,さらには生活の質を低下させることが予想される。歯周病はおよそ30歳以降からその罹患が増加すると報告されているが,現在では,小児において,歯周病のひとつである歯肉炎の罹患が増加している。 そこで今年度は,小児と成人との間で,歯周疾患の原因に違いがあるかどうかを検討するために,小児と成人の唾液成分を比較した。4-ヒドロキシフェニル酢酸(HPA)は唾液中に検出され,その濃度は,小児(平均9歳)と成人(平均56歳)で,それぞれ4.1±3.3と14.8±20.1μMであった。HPAは唾液ペルオキシターゼ/亜硝酸/過酸化水素系でニトロ化されることが知られている。唾液中の亜硝酸濃度は小児と成人でそれぞれ0.13±0.09と0.26±0.21mMであった。口腔内細菌は亜硝酸を一酸化窒素(NO)に還元でき,NOは酸素と反応してNO2とN2O3に変化する。これらの活性窒素は口腔内組織のニトロ化やニトロソ化に関与できることが予想される。唾液ペルオキシターゼに基質となり,唾液ペルオキシダーゼ/亜硝酸系でのHPAのニトロ化を抑制できるチオシアン酸塩の唾液中での濃度は,小児では0.48±0.34mM,成人では0.57±0.40面であった。 口腔内のpHは通常7付近であるが,場合によっては5付近まで低下する事がある。そこで,pH7とpH5で,唾液に含まれている亜硝酸塩依存の活性窒素生成を調べた。生成する活性窒素種に依存するが,pH5付近ではpH7付近より10倍以上の活性窒素種の生成速度が大きかった。この事から,小児,成人に関わりなく,口腔内のpHが局所的に低下すれば,その部位で活性窒素生成が見られ,この事が口腔内疾患と関係する可能性がある事を議論した。
|