歯周病の罹患に対して活性酸素や活性窒素の関与が議論されている。口腔内では口腔内細菌によって硝酸塩が亜硝酸塩を経て一酸化窒素(NO)へ還元される。NOと亜硝酸イオンは口腔内では酸化によってNO_2やN_2O_3に変化する。NO_2は酸化剤であると同時にニトロ化剤であり、N_2O_3はニトロソ化剤であることが知られている。また、口腔内pHは5.0〜8.0の範囲内で変化するが、pH5.0付近では亜硝酸イオンの一部は亜硝酸(pKa=3.3)となり、亜硝酸は自己分解によりN_2O_3へ変化する。一方、食品の機能成分のひとつであるポリフェノールは、抗酸化作用や抗炎症作用を持っている。 今年度は、唾液中での活性窒素生成をDAF-FM(diaminofluorescein-FM)を用いてpH7.0とpH5.2で測定した。DAF-FMはN_2O_3あるいは類似の化合物と反応して蛍光性のDAF-FMTに変化する。唾液にDAF-FMを加えるとDAF-FMTが生成し、その生成速度はpH5.2の方がpH7.0より大きかった。チオシアン酸イオン(SCN^-)はDAF-FMTの生成をpH7.0では抑制し、pH5.2では促進した。SCN^-による抑制は、唾液ペルオキシターゼ/過酸化水素による亜硝酸イオンの酸化阻害のためであり、SCN^-による促進はNOSCN生成のためであった。NO^+供与体であるN_2O_3やNOSCNを消去できるアジドはpH7.0ではDAF-FMTの生成に対して影響を与えなかったがpH5.2で抑制した。この結果は、pH5ではDAF-FMT形成にN_2O_3やNOSCNが関与していることを示唆している。DAF-FMT生成は、pH5.2でも7.0でもアスコルビン酸とグルタチオンで同じように抑制されたが、フェノール性物質の抑制効率は、pH7.0の方がpH5.2より大きかった。以上の結果から口腔内のpHが低下するとN_2O_3やNOSCNによる障害を受けやすくなると予想できる。
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