研究概要 |
小中学校理科で「物質の溶解」を学ぶ単元では,主に飽和食塩水からの結晶析出を扱っているが,結晶が析出する過程をリアルタイムで観察・記録することはほとんど行われていない。しかし,児童・生徒にとって興味が湧くのは,むしろこの動的過程であると思われる。そこで本研究は,スライド硝子上の食塩水滴から水が蒸発し結晶が析出する際の結晶数の時間変化ならびに結晶成長速度の測定が可能な,ビデオカメラ装着実体顕微鏡を含む準閉鎖系によるシステムにより,系の湿度と温度,さらに食塩水滴の厚み(接触角)を制御しながら結晶析出過程を調べることが可能な教材を開発することを目的としておこなった。昨年度はこのシステムの開発を行ったが,今年度はそれに引き続き,結晶析出・成長の動的過程に対して湿度並びに食塩水滴接触角が与える影響を本システムを用いて調べた。ここでは,溶液の過飽和度と結晶核析出数並びに結晶成長速度との関係について考察した。 結晶析出数の時間変化については,湿度が低ければ低いほど,また食塩水滴接触角が小さければ小さいほど,同時間での結晶析出数が多くなる明確な傾向を観測した。結晶析出の駆動力は,溶液中のNaC1および結晶中のNaC1の化学ポテンシャルの差で決まるが,これは,食塩水の過飽和度が大きいほど大きくなる。低湿度および食塩水の低接触角条件では,時間経過に伴い過飽和度が急激に大きくなるため析出結晶数が多くなることが考察された。一方,結晶成長速度には,湿度および接触角の影響は明確には見られなかった。これは,低湿度並びに食塩水の低接触角条件下では,結晶核が多数析出した結果,各々の結晶成長に必要な塩化ナトリウムを次第に互いに奪い合うようになるためと推測された。これらの実績については,現在,論文投稿の準備中である。 また,これら内容を理解するための演示実験の開発とWeb化にも着手し,21年度も引き続き研究の継続中である。
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