本研究では、盲ろう者のコミュニケーション支援を目的とし、音声コミュニケーションに重要な役割を果たしている韻律情報を触覚刺激で呈示する方式について研究した。 平成20年度においては、平成19年度に改良を施した試作システムを用いて盲ろう障害を有する2名の被験者を対象とした評価実験を実施した。 評価実験は、(1)本システムを用いた訓練後に教示音階をド(C3)、ファ(F3)、シ(B3)に設定し、それぞれの教示音階に対し、5回連続して発声する課題と、(2)教示音階をド(C3)に固定し「かえるの歌」のメロディに合わせて歌う課題とを実施した。 (1)の結果、各教示音階の課題に対して、ばらつきはありながらも本研究のシステムを用いることで触覚フィードバックによる音声ピッチ制御がある程度可能であることが確認された。 (2)の結果、目標音程と音声ピッチとの若干のずれはあるものの、ある程度メロディに沿って歌うことが可能であることが示された。このことから本システムが実際の歌唱の場面において実用に供することが可能であることが確認された。また、メロディにおける音階が下降する場合に音声ピッチのずれ・ばらつきが大きいことが観察された。これは音声ピッチを変化させる際の喉頭筋群の制御機構に起因しているものと推測される。さらに、2名の被験者とも音階が下降する場合に音声ピッチの制御が難しくなると答えている。今後はこの機序を解明するなどし、本システムを用いた効果的な訓練方法を確立していく必要がある。
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