研究概要 |
本研究課題の目的は、現代の科学者の社会的責任論を構築することである。「科学者の社会的責任」の内実は時代とともに変容してきた。19世紀後半から20世紀前半にかけては、科学の諸成果による国家め繁栄に科学者が責任を負うことが謳われたのに対し、20世紀後半、戦後になると科学の維持と発達に対する責任、科学の利用(悪用)に対する責任が問われるようになる。現代の責任論は、原爆を作った物理学者の責任論にとどまらず、生命科学、食品安全にかかわる諸科学、環境科学など範囲も多様化している。本研究では、まず専門主義の源泉について考え、次に現在科学と社会との間でおこっている公共的課題の特徴を整理する。この2つの考察をもとにして、現代の「科学者の社会的責任」論の特徴を整理することが本研究の目的である。平成18年度および19年度の研究から、現代の科学者の社会的責任は、(1)科学者共同体内部を律する責任、(2)製造物責任、(3)市民からの問いへの呼応責任の3つに大きく分けられることが示唆された。第一の内部を律する責任は、研究上の不正や捏造の防止もふくみ、知的生産物の共同体内部による品質管理のことを指す。第二の製造物責任は、原爆や核兵器などを作ってしまったことへの責任、社会をまきこんで議論すべき再生医療や脳死の技術、代理母出産の技術の責任などもふくむ。第三の市民からの問いへの呼応責任は、公的資金の使用途に関する説明責任、わかりやすく説明する責任、意思決定に用いられる科学の責任、メディアに用いられる科学の責任、科学者の社会的リテラシーなどがふくまれる(「科学」Vol.77,NO.8,866-870参照)。
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