本年度はスワインズヘッドの前後の二人の学者に焦点を当てた。まずポルトガルのアルヴァロ・トマス『3種の運動と比についての書』に見られる数学に焦点を当てた。この書はスワインズヘッド『計算の書』の注釈とも見なせる著作で、オックスフォード学派運動論の完成品である。まずその著作の全体的枠組みを概観し、判読が容易ではないルネサンス刊行版からテクストの一部を活字化した。さらに通過した距離を示すために用いられた「比例的諸部分の和」の議論がスワインズヘッドの議論を受け継ぎ、さらに詳細な場合分けに進んでいることを明らかにした。このトマスの議論によってスワインズヘッドの方法はパリ大学に導入され、さらにそこで学んだイベリア半島出身者が半島に帰ることになって、こんどはその地でセラヤなどによって展開が見られることを示唆した。この研究の一部は紀要で発表した。 ついでパリ大学のニコール・オレムの『ユークリッド幾何学に関する諸問題』に見られる数列の議論を取り上げる。その第1問題「量は比例的諸部分に応じて無限に減少するかどうか」ではより数学的議論が見られるが、そこでもスワインズヘッドに見られる「比例的諸部分の和」が重要な役割をしていることを明らかにした。さらにこの成果はパリに留学していたオランダ地方の神学者たちによってその地にもたらされ、その後サンヴァンサンのグレゴワールにまで受け継がれることになり、最終的に近代級数論へ影響を与えたことを明らかにした。以上の成果は京都大学数理解析研究所「数学史の研究」集会で発表した。
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