東北大学狩野文庫蔵の漢訳西洋暦算書の写本から幕府天文方渋川景佑の旧蔵書「西洋新法暦書」28冊を見出した。これらには「明時館図書印」が捺されており、また、墨書による書き込みは景佑の西洋天文学への理解をよく示している。また、同林文庫の「西洋新法暦書」37冊(本来は127冊本)は仙台藩天文方名取春仲の旧蔵書であることが判明した。西洋暦学の地方への伝播と見える。内閣文庫の刊本「西洋新法暦書」100冊は、最後の100冊目が美麗な写本であること、書中に中国人の手による朱書き訂正があることなどから、中国人旧蔵書が舶載されていることが分かった。館林県立図書館秋元文庫の『崇禎暦書』刊本130冊は、国内に唯一現存する揃本であるが、「西洋新法暦書」「新法暦書」などの卦面題を持つことから、合冊本であることも明らかにすることができた。『霊臺儀象志』は図版を含む刊本と目次から図版の目次を省く、2版がわが国に輸入されていることが確認できた。名古屋蓬左文庫の調査では『天学初函』24冊を精査し、これが、禁書令発布後の寛永9年の購入であることを認めた。また、これ以後も尾張徳川家が漢訳暦算書を購入していることも「御書籍目録」から見出し、マテオ・リッチ系の宗教書に別題を付けていることも発見した。 これら暦算書の内容と書誌情報を含めた調査成果は日本科学史学会年会(平成19年5月)や東アジア数学史研究国際プログラム第1期第3回集会(平成20年3月、中国天津)などで発表した。 なお、秋田県立図書館に収蔵される伊吹舎文庫の「崇禎暦書」については、調査を継続中である。こうした漢訳西洋暦算書の調査と併せて関孝和の「天文数学雑著」を精査し、これを関孝和の著作とすることの根拠が乏しいことを会誌に報告した。
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