2世紀のプトレマイオスが著した『テトラビブロス』は、9世紀にアラビア語に2回翻訳されたことがわかっている。最初は、写本が現存していないが、ウマル・イブン・アル=ファッルハーンの注釈という形で残っている。2度目の翻訳はフナイン・イスン・イスハークによるものである(以後フナイン版と呼ぶ)。この写本については、今まで不明であったインドのハイデラバードにある2写本を確認するために、18年8月に現地調査を行った。その結果、サイーディーヤ図書館のハイア33と、アーサフィーヤ図書館のハイア79はともに、『テトラビブロス』ではなく、クーシュヤールの『占星術入門』であることがわかった。 10世紀のイブン・アン=ナディームの『フィフリスト』によれば、サービト・イブン・クッラは『テトラビブロス』のアラビア語訳(フナイン版)の「第1巻を集めて、その意味を明らかにした」ことになっている。通常、他の者が翻訳したテキストを直す場合は「アスラハ」(修正・訂正する)、また注釈を施す場合は「ファッサラ」(説明する)という表現が使われる。したがって、サービトが行なった仕事は、そのどちらでもないように読み取れる。そこで、アラビア語写本を調べ、サービトが行なった仕事を検証してみた。 フナイン版の7写本のうち2写本が本文中にサービトの「注」を入れており、ひとつが欄外にそれを書き留めている。これらの「注」は、すべて「サーピトは言った・・・」という表現で始まっており、前者では第1巻に10箇所、第2巻に2箇所、後者では第1巻に7箇所、第2巻に3箇所に見られる。これらの「注」の内容は、語句、あるいは内容の説明になっていて、しかもほとんど第1巻に集中していることから、イブン・アン=ナディームが言及している、サービトが「意味を明らかにした」テキストを伝える写本だとみなしてもよいと考えられる。
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