○初期写真術の再生 上野彦馬の『舎密局必携』を精査し、湿板写真の処方や手順などを解読、湿板写真による撮影を行った後、そのネガを塩化銀紙および鶏卵紙に焼き付ける実験を行った。印画の製作実験としては『舎密局必携』による塩化銀紙、鶏卵紙は柳河春三の『写真鏡図説』の処方にて行った。本年度研究の中では異なる処方による画像の差異の明確な検証を行うに至っていないが、次年度も実験と検証を継続する。 ○シンポジウム開催 上野彦馬に学んだ冨重利平が1866年に創業した熊本市の冨重写真所の140周年を記念するとともに、湿板写真術や鶏卵紙印画の技術を考えるためのシンポジウムを11月5日、熊本大学百周年記念館で開催した。講演者としては高橋則英、石川寛夫、姫野順一に加え、アメリカにおける湿板写真研究の第一人者であるMark Osterman氏(米国George Eastman House国際写真博物館)を招聴した。 ○初期写真資料調査 海外資料調査としては5月にアメリカのGeorge Eastman House国際写真博物館で湿板写真機材およびダゲレオタイプ処理機材の調査。またカナダのモントリオールではCanadian Center for ArchitectureでWeed撮影による日本関係マンモスプレート写真およびBeato、 Stillfried他の撮影による幕末明治日本関係写真の調査を行った。国内の調査ではMark Osterman氏とともに、熊本の冨重写真所に保存される明治初期の湿板写真原板や江戸東京博物館に収蔵される横山松三郎の湿板原板などの共同調査を実施。技術や処方の違いによる画像の差異などについて、今後の実験考察の中で役立つ貴重な知見を得た。 ○初期写真機材復元 平成17年度の特定領域研究から継続している湿板写真撮影用携帯暗室の仕上げ作業を進めるとともに、湿板写真原板の感光性付与のための硝酸銀液容器の復元も行った。またアメリカでの調査に基づき、ダゲレオタイプ原板の感光性付与に用いる沃素箱および水銀現像容器の復元も行った。
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