研究概要 |
砂岩からなるアンコール・ワットの第1回廊では,表面部の浮き上がりや剥離など自然劣化が進んでいる.その原因のひとつに,砂岩柱の熱風化が挙げられてきた.しかし砂岩柱では,十分な温度分析は行われておらず,これまで熱風化の影響について検討されてこなかった.そこで本研究では,放射温度計による測定結果をもとに,砂岩ブロックに対する熱風化環境を検討した.放射温度測定は,北・南・東・西に向く回廊から4箇所(GNE, GSE, GEN, GWN),またポルチコから北・南・東・西に向く砂岩柱(PNE, PSE, PEN, PWS)を選定して行った.測定は,気温と相対湿度測定とともに2005年8月25日の午前(07:59〜10:07)と午後(15:56〜17:15)の2回に分けて実施した. これらの結果,直達日射を受ける砂岩柱表面は約51℃まで上昇し,気温より16℃以上も高くなることがわかった.従来,野外測定や野外実験などによる砂岩の表面温度は54.0℃程度まで上昇することが報告されている.このため,この砂岩柱の表面温度は,従来の報告と大きく違わない.一方,最高・最低温度の差を,砂岩柱表面の日較差(ΔT)として,測定時間で除して温度勾配(D)を求めた.その結果,GENではΔT:15〜18℃,D:1.7〜2.1℃h-1,PWSでΔT:13〜16.9℃,D:1.9〜2.5℃h-1となった.熱衝撃破砕実験によれば,加熱速度が2℃min-1を超え,最大温度が350℃を超える条件で深成岩類の表面にクラックが形成され,永久ひずみが残ったという.この実験結果を考慮すると,測定された温度勾配は,熱衝撃破砕に結びつくほど大きいものではないということができる.すなわち,アンコール・ワットの第1回廊では,日射を受ける砂岩柱表面部は高温となるが,温度勾配は小さく,日射による破砕効果は大きくないと考えられる.
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