研究概要 |
1992年に世界遺産登録されたアンコールは100以上の寺院からなる.多くの遺跡は砂岩,ラテライト,煉瓦などからなり,9-12世紀にかけて建設された.このうち,砂岩は長い期間にわたって建築石材として用いられた.砂岩で作られた柱,窓枠,偽窓枠の基部では,フレーキングが認められ,凹みを見つけることができる.そこで本年度は,アンコール・ワットを含め,おおむね建築年代が判明している23遺跡を対象に,砂岩ブロックに見られる凹みの深さ(剥離深度)とシュミットハンマによる反発値を測定し,砂岩のフレーキング速度と岩石の強度との関係を調べた. 剥離深度は,柱に残された碑文やレリーフなど,オリジナルと考えられる平面からの深さをノギスで測定した.また,シュミットハンマ反発値は,2種類の反発値を求めた.すなわち,凹みを対象に,1地点を連続打撃して求めた反発値(Rf)と,凹み表面を多数打撃して求めた反発値(Rd)である.そして,Rfを新鮮な砂岩の硬さ,Rdを風化した砂岩表面の硬さと考え,これらをもとに風化係数(Wc=(Rf-Rd)/Rf)を計算した. これらの結果,砂岩の最大剥離深度は9-104mmとなり,遺跡の経過年数をもとにフレーキング速度を計算すると11-94mm/kaとなった.また,最大剥離深度は,経過年数の大きい遺跡の砂岩ほど大きく,風化係数に比例することがわかった.フレーキングは乾湿風化,加水分解,塩類風化などによると考えられるため,それら風化作用の抑制が遺跡の保全に重要であることが指摘される.
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