調査対象海域として我が国を代表する一級河川である石狩川からの栄養塩供給を受けている石狩湾を選定した。石狩川の最下流部においてほぼ一ヶ月おきに河川水を採取し、窒素、リン、ケイ素の主要栄養塩を測定した。また、海域調査を練習船うしお丸、おしょろ丸を用いて計4回広域観測を行った。すべての海洋観測時において河川プルームを示す低塩分水は岸沿いを北上する様に伸展していた。2006年5月の航海時には融雪に伴う長期の流量増大に起因して、大規模な河川プルームの発達が観測された。石狩湾表層水中の栄養塩濃度の分布はリン酸塩を除き、河川プルーム内で高濃度であり河川からもたらされる栄養塩の影響を大きく反映したものであった。特にDINについては、季節に拘わらずプルーム外では枯渇しているのに対し、プルーム内においては石狩川河口に近づくに従い濃度が増大していた。クロロフィルα濃度は、深層からの栄養塩供給が考えられた2006年5月を除き、河川プルームの流軸上において高濃度であった。最大のクロロフィルα濃度が観測されたのは降水イベントに由来した栄養塩供給を受けたと考えられる2005年8月航海時であった。一方で、2006年8月ではプルーム内でもクロロフィルα濃度は非常に低く、およそ4倍の差が存在した。また、2006年5月は河川プルームに由来した栄養塩類が表層において高濃度に存在していたにも拘わらず、クロロフィルαは比較的低濃度であった。更に表層において見積もられた基礎生産速度の結果についても同様の傾向であった。このことは、河川からの栄養塩供給量のみが、河川プルーム影響下における基礎生産過程にとって重要ではなく、他の要因による影響が非常に大きい事が示唆された。この複合要因を更に解明することで、河口域・沿岸域における基礎生産環境に対する河川プルームの影響をさらに解明することができると期待される。
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