調査海域として我が国を代表する一級河川である石狩川からの栄養塩供給を受けている石狩湾を選定した。石狩川の影響を受けた河川水プルームは湾の北東部に分布することから、海域の基礎生産に及ぼす石狩川の影響の歴史的変遷を明らかにする目的で、湾北東部の堆積物中の新生物元素親の変化を調べた。練習船うしお丸を用いて、石狩湾の河川水プルームの流軸に沿った5地点で最大40cmの堆積物コアを採取した。堆積速度は、210Pbと137Csを測定することにより推定した。得られた堆積速度は、地点間で異なるが、0.5-1.3cm/yrの範囲であった。このことから今回採取された堆積物コア中には最大で過去80年程度までの堆積物の情報が保存されていると推定された。化学分析の結果、有機炭素含量の高い層が確認され、堆積速度から1970年代に堆積した層であると推定された。炭素と窒素の比が現在の10前後と比較してこの層の比は20前後と有意に高いことと合わせると、この時期に炭素に富んだ泥炭質を含んだ土壌粒子が河川を通して海域に輸送されたと考えられる。これは、1970年代に農地改良が盛んに行われたことと洪水が頻発した事実と符合する。また、海洋の主要な植物プランクトンである珪藻類のみが生産するケイ酸質の殻に由来する生物起源ケイ素の分布は、もっとも河口に近い点において徐々に増加する傾向が得られた。このことは、この地点において珪藻類の生物生産が近年増加傾向にあることを示唆している。この理由として河川からの栄養塩等の供給が近年増加傾向にあること、あるいは河川改修の結果、河川起源の粒子量が減少し、植物プランクトンの光合成に重要な光環境が改善したことが考えられた。
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