研究概要 |
南半球の春先に発生するオゾンホールの影響のために,南極ではB領域の紫外線が地表に到達するなどの影響が現れている。南極に地理的に近いオーストラリア大陸では,皮膚癌患者増加の傾向が告されている。南極における紫外線量の増加が生態系に及ぼす影響は大きいと推察される。そこで実際に動物組織を用いた影響評価の研究として,紫外線が目の水晶体や角膜に、どのような分子機構で白内障を引き起こすか調べた。 平成17年に昭和基地に運搬した牛眼および豚眼の試料は,春季,夏季,秋季に分けて各々30日間太陽光に晒す実験を行った。平成19年4月頃に日本に試料が運搬される見込みである。試料の分子構造を分光学的に観測し,次年度報告する予定である。さらに平成18年12月に昭和基地に運んだ試料は,現在紫外線曝露実験の遂行中で,平成20年4月頃に日本に戻ってくる予定である。 一方,南極の紫外線曝露実験が眼の試料に及ぼす影響を定量する目的で,牛眼角膜および,培養したヒト皮膚の線維芽細胞に紫外線を人工的に一定時間照射する実験を行った。角膜のFT-IRスペクトルをATR法により観測したところ,紫外線照射によってアミドIIバンドのアミドIバンドに対する比が大きく減少していることが分かった。これは,角膜の主成分であるコラーゲンのペプチド結合が紫外線照射により破壊された結果であると考えられた。糖尿病との関連を調べる目的で,角膜の糖化やビタミンC添加の実験も行った。その結果,コラーゲンのペプチド結合の破壊の程度は,角膜を糖化すると促進され,ビタミンCの添加により抑制された。一方,ヒト皮膚の線維芽細胞に紫外線を照射すると,細胞の多くが死滅してしまい,紫外線照射により発現すると期待されたコラーゲン分解酵素は培地中に確認できなかった。現在,ヒト皮膚の表皮細胞に対する紫外線照射の影響に関する実験を継続的に行っている。
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