疫学調査によって、ADL調査では半数が入浴や移動における介護が必要でありという実態が明らかになり、胎児性水俣病患者の中には急激な下肢の運動機能の悪化を示したものがあった。但し、これらの症状の急激な悪化を訴えたのは全調査22名中2名のみであり、全ての胎児性患者に共通して見られる減少ではなかった。上肢・下肢の運動障害に加えて手足のしびれ等の成人性の水俣病患者の自覚症状を併せて持っていること、頭痛・肩こりの愁訴率の高いことが示唆された。メチル水銀は生物濃縮性が高く、主として魚介類の摂取を介して人体へ取り込まれ、中枢神経、特に胎児への影響が強く現れる。また、胎児は鉛(Pb)ヒ素(As)、カドミウム(Cd)にも経胎盤的に曝露されている。一方、セレン(Se)メチル水銀の毒性を軽減する作用があるのではないかと考えられている。 そこで、これらの金属のメチル水銀による毒性出現リスクへ及ぼす相加的または保護的可能性を検討するために、これらの金属の胎盤透過性と母体や児の血液循環における相関について出生時の母体血、臍帯血の赤血球ベースで検討した。Cdを除く他の重金属は母児の相関か強く、児は母親の取り込みレベル(汚染)を強く反映することが示された。HgとSeは共に児に高く移行することが示された。特に、メチル水銀は、感受性の高い胎児に濃度的にも母親より高濃度に蓄積した。動物実験では、脳の発達前期(出生1〜10日)中期(14〜23日)後期(35〜44日)に8mg/kg/dayのメチル水銀を投与し6週齢と1年後の検査では、後期投与群の自発運動の回復は見られたが、後肢の麻痺に伴う筋強調運動障害は強く残っておりロータロッドと受動回避の成績は回復していなかった。ただ、水迷路の成績は6週齢の時点より改善が見られた。これらのことから、かなり多量のメチル水銀の投与であるにも拘らず脳の発達の前期及び中期の影響はこれらの神経行動学的検査では現れにくく、後期の影響が強く現れ、その影響は1年後に一部改善されるが後肢の麻痺は強く残るという結果であった。
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