本研究の目的は、ヒグマの出没が頻発する北海道渡島半島地域において、ヒグマ保護管理の人間的側面研究に基づき、従来の事後対応型のヒグマ対策に加えて地域住民参加の予防体制を構築する社会実験を行い、その可能性と困難性、有効性を検証することである。 初年度である平成18年度は渡島半島地域全体と、中でも特にヒグマの出没が頻発する厚沢部町とヒグマの出没が比較的少ない長万部町を対象に、郵送アンケートによる住民意識調査を行った。厚沢部町では各種関係者への聞き取り調査と各種資料分析、出没現場検証も行った。 このうち住民意識調査の結果の分析は、厚沢部町については終えているが、長万部町と渡島半島地域全体については平成19年度に行う予定である。それ以外の調査の結果は一応の整理を終えている。 厚沢部町に関する調査結果の概略は以下の通りである。 1.ヒグマによる畑作物の食害が年平均数十万円規模で発生し、有害捕獲が年平均十数頭行われている。対策はほとんど出没時の注意喚起と捕獲のみである。出没が集中する地域がいくつかあるが、食害を受ける農家は限定されていない。 2.歴史的に、森林を伐採しての農地開発が精力的に行われ、農地へのヒグマの出没を増やす要因となっている。 3.遭遇、目撃、作物の食害などヒグマに関する経験を持つ住民は8割に及び、住民のヒグマに対する態度は大変厳しい。人里へのヒグマの出没を許容しない人が8割、ヒグマの生息そのものを許容しない人が5割に達する。ただしその差3割の人はヒグマが山中にとどまる限りでは生息を許容すると解しうる。ここに予防策の実施によるヒグマとの共存の可能性が見出されうる。住宅周辺や田畑でヒグマ予防策をとっている人が2割にとどまっているがゆえに予防の余地は大きい。また、ごみ管理や教育、予防支援などを望む人も6割ないし9割おり、住民の間に予防策への期待は高い。
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