本年度は、埼玉県川越市において住民や事業者に加え、有識者や行政も含めた形で実験的な環境リスクコミュニケーションを実施した。具体的には、公募による市民6名、市内の事業者から3名、有識者を2名、行政から1名の計12名で、グループワーク、情報を提示しての議論、質問紙調査などのための会合を開催した。 まず様々な立場の参加者が持つ考えを整理するため、KJ法を用いて参加者の環境に対する意見の集約を行った。作業中は身近な現象から制度・規制まで、参加者による積極的な意見交換が行われた。 次に、埼玉県内・川越市内における状況についてPRTRデータを提示したうえで、議論や質問紙調査を行った。本研究では工業用としてベンゼンと塩化メチレン、農業用としてD-Dとジクロルボス、家庭用としてLASとAEの計6物質を提示対象とし、埼玉県・川越市における各化学物質の年間排出量を、物質の有害性などを解説しつつ図表で提示した。これらのデータについて、事業者からは、「住民におけるPRTRの知名度の低さを実感した」といった意見が表明された。 続いて、地域内の環境濃度という視点から現在の状況を提示した。このため、産業技術総合研究所のソフトウェア「ADMER」を用いてシミュレーションを行い、データ内容に関する議論と質問紙調査を実施した。議論では、「事業者としても化学物質を使わなければならない現状がある」、「市民の立場で理解できるような化学物質の情報が必要である」など、各参加者の意識を反映した意見も表明された。また、議論のなかで参加者が他の主体の考え方を認識しつつある様子が見てとれた。このことから、各主体がそれぞれの立場を理解しながら、リスク削減という共通の目的に向けて意識を共有する萌芽がみられたと考えている。
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