研究概要 |
本研究の目的は,森林管理放棄をもたらす要因として管理主体の構成と利用価値に注目し,森林管理放棄に至ったプロセスを明らかにすることである.今年度は,まず,研究対象地の森林の所有履歴および利用履歴を明らかにした.次に,個人有林の立地特性を分析した. 1.岡山県英田郡西粟倉村における森林の所有履歴 調査地の現在の森林所有形態は,すべて民有林で,面積の5割を個人有林が占める.江戸時代に御林と百姓自林に分かれていた森林は,明治に,官林と部落有林に区分される.官林はその後払い下げられ,現在の村有林・会社有林となる.部落有林は大正期に林野統一され,その後昭和40年代に採草地や薪炭林として入会利用されていた村有林が個人分割され,全村あげて植林が進められた.現在の所有形態のうち,『育林放棄がもっとも進行しているのが,このとき拡大造林された個人有林である.昨年度の聞き取り調査にもとつくと,小規模林家はもともと林業経営を念頭においておらず,臨時収入源として森林を位置づけている.したがって,個人有林の管理放棄は,主伐材の経済価値の低迷よりむしろ,間伐利用の多様性がなくなり,臨時収入源として成立しなくなった点が重要であると考えられる,また,植え付け時の未熟な技術によって,良質の材が期待できないことも管理放棄を容易にさせていると考えられる. 2.個人有林の土地利用履歴と立地特性 現在の個人有林の立地特性をGISにて分析したところ,村有林や会社有林に比べて有意に標高が低く,傾斜がきつかった,これは,かつての採草地や薪炭林としての利用が反映されている.低標高でアクセスしやすいことは,森林管理に有利である.一方,傾斜がきついことは,風倒木の処理が困難であるなど,管理面にかつての土地利用履歴が負に作用していることが示唆された.
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