腫瘍の血管新生に対する電離放射線(IR)の影響に関する研究は少ない。本研究では、IRが腫瘍血管を構成する血管内皮細胞(EC)にどのような影響を及ぼすのかについて検討した。IRがECにアポトーシスを引き起こすことはよく知られているものの、その頻度は10Gyという比較的大線量でも10%程度である。我々は、増殖期にある血管内皮細胞(EC)に8Gy照射すると、ほとんどのECが(〜90%)3日目あたりから扁平巨大化し、増殖が停止することを見いだした。この現象は線量依存的で、老化様形質と極めて類似していたことから、老化マーカーとして知られるβ-ガラクトシダーゼ活性を調べると、ほとんどの細胞が陽性を呈していた。また、網羅的遺伝子発現プロファイル解析により、DNA複製関連遺伝子群と紳胞周期進行遺伝子群の発現減少、接着因子群の発現上昇といった老化細胞に特徴的なパターンを示したことから、この現象は老化であると結論した。次に、IRによって老化した細胞を用いて、血管新生能がどのような影響を受けるかについて検討した。その結果、細胞増殖能、遊走能、浸潤能が有意に低下しており、IRによって老化を誘導したECは、その血管新生能が抑制されると推測された。我々は、プラトー状態で静止期にあるECでは、老化様形質の発現が抑制されることを見いだし、その原因は、IRによって引き起こされたDNA二重鎖切断(DSB)修復能がプラトー期において充進しているためであることを突き止めた。以上の結果は、IRによって引き起こされる老化様形質の発現が、IR照射後のECの血管新生能に大きな影響を及ぼしている可能性を示唆した。
|