研究概要 |
放射線生物学研究と全く同じ条件で培養・照射した細胞中での放射線遅延影響に関わる長寿命ラジカルの直接観測を目的とし、当研究グループでは、ゴールデンハムスター胎児(SHE)細胞をT175培養フラスコ中で培養してγ線照射(4Gy)した後、細胞のESRスペクトル直接観測した。その結果、細胞1つあたりのラジカル量は、未照射、照射1時間後、5時間後でそれぞれ、1.6×10^6,1.8×10^6,2.1×10^6 spinsと照射後の時間経過と共に増えていく「遅発性長寿命ラジカル」の定量観測に成功した。哺乳動物細胞中ラジカルの定量測定並びに、4Gyというアラニン線量計の観測限界程度の線量でのラジカル増加をESRで直接観測したのは世界で初めてである。照射後20分後に5mMのビタミンCで細胞を処理したところ、遅発性長寿命ラジカルの生成は未添加の場合の約半分に抑えられ、ビタミンCの照射後添加による突然変異頻度低下の放射線生物学実験との対応関係が見られた。電子伝達阻害剤であるミキソチアゾル(0.5μM)を照射前1時間から照射後5時間処理したところ、遅発性長寿命ラジカルは増加しなかった。また、1mMの過酸化水素で処理すると、遅発性長寿命ラジカルと同じと思われるラジカルが生成した。これらの結果より、放射線照射によってミトコンドリアの電子伝達系の構造が一部崩れて電子が漏れ出し、その電子と酸素が反応してO_2^-を生成し、H_2O_2を生成し、遅発性長寿命ラジカルの生成に繋がったと考えられる。これまで、照射細胞中でのミトコンドリアにおける過酸化水素レベルの増加を示す研究が報告されているが、そこから核の遺伝的不安定性にどのように伝わっていくかはわかっていなかった。本研究で見出した遅発性長寿命ラジカルは、その一端を担うラジカルとして重要な役割を果たしているものと思われ、まもなく論文を投稿する予定である。
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