研究概要 |
放射線生物学で用いるのと同等の4 Gyの放射線線量にて照射した培養シリアンゴールデンハムスター細胞において、照射後に数時間掛けて徐々に細胞内に蓄積してくる「遅発性長寿命ラジカル」を世界で初めて観測した。細胞はESRチューブに導入されて液体窒素中で凍結される瞬間まで全て生きている状態である。これまでに細胞から抽出されたミトコンドリアや酵母のESRスペクトルが観測されたことはあるが、哺乳動物細胞のESRスペクトルを直接観測した例はなく、未照射細胞中の1.8×10^6個/cellのラジカルが存在すると初めて定量された。 照射後に生成する遅発性長寿命ラジカルのレベルは5時間後には0.3×10^6個/cellに達し、そのレベルは照射後12,20hでも保たれたままであった。このラジカルの増加はビタミンC添加によって7割ほどに抑えられ、ビタミンCの照射後添加による点突然変異誘発の防御との関連が示唆された。 電子伝達阻害剤であるミキソチアゾルを細胞に加えると、照射しても遅発性長寿命ラジカルは生成せず、ミトコンドリアから漏れ出た過剰電子の影響が示唆された。グルタチオンの合成阻害剤、カタラーゼの機能阻害剤を加えると、照射後1時間で遅発性長寿命ラジカルのレベルが0.6×10^6個/cellまで達したことから、カタラーゼやグルタチオンで無毒化される過酸化水素の影響が示唆された。過酸化水素を1mM加えるとラジカル量は30%も増加した。これらの結果より、遅発性長寿命ラジカルの生成機構は、放射線照射で機能不全となったミトコンドリアから漏れ出した電子が溶存酸素に付着してO_2^-となり、その後SOD酵素を介して過酸化水素が生成し、過酸化水素がある分子を酸化して遅発性長寿命ラジカルを生成しているものと思われる。照射後短時間はカタラーゼとグルタチオンで過酸化水素を分解するものの、遅発性長寿命ラジカルを還元することができずこのラジカルが蓄積し、遅延放射線影響へと繋がっていくものと考えられる。
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