大気圏オゾン層は依然として回復せず、地上の紫外線(UV-B)環境は改善されていない。紫外線は生命に有害であることが多い。植物種に対しては生育に抑制的に作用する場合がある。 紫外線はピリミジン二量体とよばれるDNA傷害を生成し、DNA複製や遺伝子発現の阻害及び突然変異の原因になる。太陽光を浴び続ける植物には常に二量体が存在するはずである。この傷害の修復系に光回復がある。この活性の低いイネの生育が紫外線によって抑制されることから、高等植物の紫外線防御系において光回復が重要な働きをしていることが推測されている。光回復の能力を高めることで紫外線による植物の生育阻害の程度が軽減されないか、もしそうであれば作物の機能改善に寄与できる。 そこで、我々がホウレンソウから単離したCPD光回復遺伝子をシロイヌナズナに導入してコピー数を増やすことで紫外線(UV-B)に対する耐性を増強の可能性を調べる研究を始めた。先ず、CPD光回復遺伝子を植物形質転換用ベクターpCGN5138(Km^r)に組み込んだコンストラクトを作製した。アグロバクテリウムLBA4404に導入後シロイヌナズナ(ecotype Columbia)に感染させて形質転換を行なった。形質転換体と思われるカナマイシン耐性個体がいくつか得られ、自家受精を繰りかえしてホモ個体を得た。PCRによって導入遺伝子を確認しているところである。平行して、発芽後2週間目ぐらいの形質転換植物をUV-B(40〜150kJ/m^2)+白色光下で生育させたところ、対象区に比べて生育抑制の程度が軽減される傾向がみられた。遺伝子増幅による紫外線耐性の増強の可能性が示唆された。
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