p53結合蛋白質1(53BP1)遺伝子を欠損したDT40細胞を用いて、53BP1が関与する新規の非相同末端結合修復経路(53BP1依存性修復経路)を見出した。この修復経路は、Gl期細胞におけるDNA二重鎖切断の修復に特に寄与率が高く、また既知の非相同末端結合修復経路(Ku70/Ku80/DNA-PKcs経路、ATM/Artemis経路)と異なり、DNA-PK、ATMによる調節を受けていないことがわかった。しかし、既知の非相同末端結合修復経路と同様に、修復の最終段階でDNA ligase 4を利用することが示唆された。DT40細胞で、53BPl依存性経路、Ku70/Ku80/DNA-PKcs経路、ATM/Artemis経路の3経路を同時に機能不全にすると、G1期細胞はもはやDNA二重鎖切断を修復する能力を失い、したがって細胞は極めて低線量のX線照射で完全に死滅した。文献的に53BP1と結合する可能性のある蛋白質をいくつか候補にあげ、それらの蛋白質の遺伝子を欠損させたDT40細胞株を樹立した。そのうちのひとつのDT40細胞株が、G1期においてX線に対して高感受性を示すことがわかった。さらに、エピスターシス解析を行ったところ、G1期細胞のX線感受性において、Ku70、Artemisのいずれともnon-epistaticであったが、53BP1とはepistaticであった。従ってこの蛋白質は、53BP1と協調してDNA二重鎖切断の非相同末端結合修復に関与するものと思われ、現在さらなる解析を続けている。
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