研究課題
基盤研究(C)
低濃度のトリブチルスズを雄ラット(3か月)の脳室に投与し、改良型遅延非位置合わせ課題によって短期記憶能力を測定した。課題の獲得に要する日数(長期記憶能力)はコントロールラットに比べ有意な差がなかった。遅延非位置合わせ課題で短期記憶の保持時間を測定したが、多くのラットが待ち受け方略をとったために有効な測定点が少なく、統計処理が行えるだけのデータが得られなかった。しかし一部のトリブチルスズ処理ラットの短期記憶保持時間は長くなり、記憶能力が増加した可能性がある。問題はラットの待ちうけ方略であるので、スキナー箱を改良し、レバー後方に赤外線を用いた検出装置をセットして待ち受け方略を取りにくい実験条件に変更した。現在この新しい装置を用いてコントロールラットの測定を行っている。さらにメチル水銀のラット海馬への影響を測定した。10日齢ラットから海馬を取り出し、300μm厚のスライスにして培養した。海馬スライスに様々な濃度のメチル水銀を48時間作用させると、ニューロステロイド合成系酵素のmRNA量が変動した。P450c17とP450aromのmRNA量が増加したことから、おそらくエストラジオールの生合成活性が増加したと思われる。海馬スライスに対するメチル水銀の細胞毒性を測定したところ、エストラジオールを共存させると毒性が低減した。メチル水銀によるエストラジオール生合成活性の増加は、自己をメチル水銀の毒性から保護する結果となり、海馬の自己保護作用の一環として理解できるのかもしれない。
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