本研究では、Wistar系ラット及びUGTIAファミリーを欠損したラット(Gunnラット)に低用量のKanechlor-500(KC500)(10mg/kg)を10日間連続投与することにより、いずれも血中サイロキシン(T_4)濃度が低下することが明らかになった。また、Wistar系ラットのKC500による血中T_4濃度の低下には、従来考えられているT_4のUDP-グルクロン酸転移酵素(T_4-UGP-GT)活性の増加よりも、T_4の血中から肝臓への移行が重要な役割を果たしていること、またその移行には血中のT_4とトランスサイレチン(TTR)との結合阻害が関与していることが示唆された。すでに、KC500(100mg/kg)単回投与による血中T_4濃度の低下作用メカニズムとして、著者らが示した血中T_4の肝臓への移行は、KC500の過剰投与による一過性の生体防御機構ではなく、単回投与では無作用量のKC500を連続投与することにより、生体内でpolychlorinated biphcnyl(PCB)の蓄積が起こり、KC500(100mg/kg)単回投与と同一のメカニズムで、血中T_4濃度の低下が起こることが示された。このことは、ヒトにおいても、微量のPCBを含む魚介類などを日常的に摂取することによりPCBが体内に蓄積し、甲状腺ホルモン濃度の低下が起こる可能性が考えられ、PCBなどの化学物質に対する食品の安全性の評価が重要であると考えられる。 また、ヒト肝臓におけるT_4のグルクロン酸抱合は、主にUGT1A1及びUGT1A3により触媒されることが示された。さらに、T_4-UDP-GT活性の個人間変動は、UGT1A1及びUGT1A3の発現量の違いに起因することが示唆された。ヒトを含む多くの動物種のPCBによる血中甲状腺ホルモン濃度の低下機構の解明はいまだ不十分であり、今後のさらなる追究が必要である。
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