本研究は、ステロイド合成・代謝に関与する肝臓中のcytochrome P450薬物代謝酵素誘導が、肝臓以外とくに子宮内膜腺癌の増加させる機序解明を目的として実施した。とくに本研究では、エストロゲン代謝を変調に最も関連するCYPの分子種を特定すること、その分子種の誘導とエストロゲン代謝変調の関連性について肝臓と子宮について検索した。 平成18年度の研究において、肝臓におけるエストロゲン代謝に最も関与するCYPの分子種として報告されているCYP1B1が、本研究でも誘導されたことから、この分子種がエストロゲン変調に関連する薬物代謝酵素最も有力候補であると考えられた。 平成19年度は、肝臓中と発癌部位である子宮におけるCYP1B1をはじめとする各分子種の分布を遺伝子発現レベルと、免疫組織化学染色によるタンパクの発現を検索した。さらに、肝臓中のエストロゲン代謝において強い発癌性をしめすエストロゲン代謝物4水和物(4HE)と発癌性を示さないエストロゲン代謝物2水和物(2HE)を測定した。 その結果、肝臓においてCYP1B1は他の分子種である1A1、2B1および3A2と同様発現していたが、発現強度はCYP3A2より弱かった。一方、内因性エストロゲンの影響を排除するために卵巣を摘出した動物の子宮を用いた実験では、無処置群とエストラジオール、2HE、4HEおよびエストロゲン変調による子宮癌を促進するindole3carbinol(I3C)投与のいずれのおいても、CYP1B1は最も強く発現していた。しかし免疫組織化学染色では、肝臓はほぼ遺伝子発現と同様のCYps分子種の抗体が小葉中心部に観察されたが、子宮ではいずの分子種もほとんど陽性像は認められなかった。これらの動物の肝臓中の2HEおよび4HEを測定したところ、I3Cのみに双方の著しい増加が観察された。 これらの結果から、CYP1B1を誘導するような化合物における2HEと4HEのエストロゲン代謝変調は、おもに肝臓での代謝による可能性が示唆された。さらに多くの化合物で同様の経路が存在することを確認することが今後必要と考える。
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