昨年度は、難分解性の有機塩素化合物であるオルトジクロロベンゼン(DCB)を含む有機廃水について、開発したニッケル触媒を用いて270℃で分解させることに成功した。しかしながら、分解と同時にニッケル粒子のシンタリングが進行しており、シンタリングを抑制することが課題となった。 シンタリングが進行する理由として、DCB中の塩素がガス化によって塩酸となり、ニッケル粒子を溶出させることが考えられた。そのため、廃水中にあらかじめアルカリを添加し、ガス化中に塩酸が生成してもすぐに中和し、ニッケルの溶出をできるだけ抑制する方法を検討した。DCB200mg/Lを含む模擬廃水に水酸化ナトリウムが0.1mol/Lになるように加え、270℃、9MPa、LHSV=20 h-1で水熱ガス化したところ、水酸化ナトリウムを含まない場合の炭素転化率は50%であったが、水酸化ナトリウムを加えた場合は60%に向上した。アルカリ金属はガス化に対して触媒作用を持つことが知られており、水溶液中のナトリウムイオンも同様に触媒となって働き、ガス化活性が向上したものと考えられた。同条件で50時間のガス化試験後にエックス線回折および透過型電子顕微鏡を用いて触媒中のニッケル粒子の状態を評価したところ、ニッケル粒子のシンタリングは大きく抑制され、シンタリングはほとんど進行していなかった。このように、廃水中へのアルカリの添加がニッケル粒子のシンタリングの進行を大きく抑制するとともにガス化活性の向上にも効果があることを発見した。また、アルカリによって生成した二酸化炭素も炭酸塩として処理水中に吸収されるので、生成ガス中の二酸化炭素濃度が低下し、生成ガスのカロリーアップにも効果があった。
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