研究概要 |
「誘起分極を電磁場に繰りこむ問題」の典型例は巨視的マクスウェル方程式と巨視的構成方程式の導出で(既に代表者自身が独自に開発していた)物質の電磁応答の一般論「微視的非局所応答理論」に長波長近似を加えるという論理的に一貫した方法により,第一原理に根ざした巨視的電磁応答の一般論を導出した.この巨視的マクスウェル方程式は巨視的感受率テンソルを一つしか必要とせず,その単一の感受率が電気・磁気分極とそれらの干渉効果をすべて表す.非相対論の範囲で十分一般的な物質と電磁場のハミルトニアンを用いて導出したこの新形式は従来形より一般性があり,二つのテンソルε,μを必要とする旧形式の「唯一性の欠如」という欠陥を克服しているほか,磁気感受率の定義としても明瞭な理由に基づき「磁束密度Bに比例する(従来とは異なる)定義」を要求している.上記の干渉効果はキラル対称を記述する従来の現象論Drude-Born-Fedorovの構成方程式を改訂する内容を持つ.この研究結果は,メタマテリアル,近接場光学,フォトニック結晶等の最近盛んな研究分野に影響するだけでなく,物理学の主要な教育テーマである電磁気学にも改訂された明瞭な形式を提供する.研究の進展とともにこの内容が電磁気学の基礎を書き直す重要なものであることが明らかになってきたので,一論文としての公表に止まらず,細部の議論も含んだ著書にまとめることが最優先であると判断を固め,その実現に最大の努力を傾けた。脱稿した原稿は現在ドイツのSpringer Verlag社に送付済みで,本年9月出版予定.この優先順位のため,他に提案した2つの研究テーマ(上記理論の応用問題)は定式化を終えたが完成には至らなかった.
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