本研究により、FSM-16における吸着水について新しい知見を得る事ができた。 水分量を正確に制御したin-situ中性子準弾性散乱実験を行い、Jump Diffusion modelにより解析を行った結果、以下のことが明らかになった。 ・FSM細孔内に吸着した水分子のダイナミクスは、FSM細孔表面に強く束縛された水分子(モノレイヤー水)と、それ以外の水分子に分けて解析が可能である。 ・モノレイヤー水の拡散定数(約10^<-9>m^2S^<-1>)及び活性化エネルギー(約2.5kcal/mol)は、バルク水の半分程度。 ・モノレイヤー水の滞在時間は5倍程度(室温)。 ・モノレイヤー水以外の水分子はほぼバルク水と同じ拡散定数(2.7x10^<-8>m^2S^<-1>)、活性化エネルギー(4.7kcal/mol)であった。 このような細孔表面の水分子ダイナミクスの特異性を理解するためには、FSM-16の骨格構造の理解が必要であるため、中性子及びX線を用いた回折実験を行い、構造解析を試みた。細孔内への水分子吸着過程に関わる情報が得られたと考えているが、原子レベルでの構造解析は未だ完了していない。FSMの骨格構造、つまりシリカガラス構造そのものの解析を行うために、水素含有量の測定、重水素化を行いながら試料作製、調整を行う必要がある。また、シリカガラスの高密度化においては、原子振動分布に変化があることが分かっているので、上記の水素量の制御を行った上で、中性子非弾性散乱実験を行う事を計画している。
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