本研究では、既存の微細加工技術に頼ることなく、表面の自己組織化現象を利用してGaAs、InAs等の化合物半導体系量子ドットを二次元的に配列させることに成功した。基板として用いたのは、GaAs(111)A表面上に層状に成長させた5原子層程度のInAs薄膜である。InAs/GaAs界面では7.1%の格子不整合を緩和するために、<211>方向に平行な完全転位と<110>方向に平行な部分転位が三回対称性を持って形成される。その結果、InAs表面では転位に沿って線状の溝(0.05nm程度の深さ)が約80Åの間隔で形成された。まず、Ga(約0.1原子層に相当する量)のみを室温から300℃の範囲でテンプレート上に蒸着した。約200℃でGa液滴を作製した場合に転位ネットワークの周期性を反映した二次元配列が走査トンネル顕微鏡によって確認された。一方、GaAs(111)A表面上にGaを直接蒸着した場合には、液滴の配列はランダムであった。Ga液滴の横方向のサイズはGaの蒸着量に依存し、上記条件の場合35-70Åであったが、液滴の高さは蒸着量にかかわらずほぼ一定であった(4-5Å)。液滴の形成位置は転位と転位の間であり、この領域は圧縮歪みを受けている場所であることが明らかとなった。周期配列したGa液滴にAs分子線を照射することによってGaAs結晶島を作製した(液滴エピタキシー法)後も、周期性に乱れは生じなかった。これに対し、GaとAsを同時蒸着した場合には、GaAs島の周期配列は起こらなかった。以上の結果は、量子ドットの二次元配列を実現する上で、液滴エピタキシー法がきわめて有用であることを示している。次に、GaAsドットの間隔を制御することをねらいとして、In_xGa_<1-x>As/GaAsテンプレートの作製を試みた。ステップ上側ではミスフィット転位網が観測されたものの、下側では観測されなかった。これは、歪み緩和しやすいステップ上側の領域でIn濃度が高くなり、下側ではGa濃度が高くなったためと考えられる。この二相分離を防ぐことが今後の課題である。
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