生体膜は、脂質膜と膜タンパク質、裏打ちタンパク質などが組織化された構造を持ち、細胞内における情報伝達・エネルギー変換などの重要な機能を担っている。我々は、新しいモデル生体膜として、光リソグラフィー技術により光重合したポリマー脂質二分子膜と流動性脂質二分子膜をハイブリッド化するパターン化モデル生体膜作製手法を世界に先駆けて独自に開発した。「集積型人工生体膜」は、この独自技術を発展させることで膜タンパク質を含むパターン化モデル生体膜を構築し、生体膜機能を高精度に再現することを目指している。平成19年度には、集積型人工生体膜の実現に向けて、ポリマー脂質二分子膜の作製技術の改善、および界面活性剤を用いた流動性脂質膜組み込み技術の開発が行われた。ポリマー脂質二分子膜の作製技術については、光重合性ジアセチレン脂質のモノマーを基板に成膜する際、水面上に低温で脂質単分子膜を展開することが有効であることが確認された。一方、生体膜と同等の機能を発現する流動性脂質二分子膜の組み込みについては、これまで主にベシクル融合法によって基板表面に堆積されてきたが、脂質組成や膜タンパク質の存在によって基板表面への膜吸着が著しく阻害されるという問題があった。この問題を克服するために、炭素鎖の短いリン脂質(例:DHPC)を界面活性剤として加えることによって、ベシクルの二分子膜を部分的に可溶化した構造(バイセル)を形成し、基板表面への膜吸着を検討した。短鎖リン脂質存在下では基板表面への膜吸着がベシクルのみの場合に較べて著しく促進されることが分かった。さらに、この現象を利用してウサギ筋肉より得られた筋小胞体由来の脂質膜をパターン化された人工生体膜内に組み込むことに成功した。これらの技術は、集積型人工生体膜の作製において重要な役割を果たすものと期待される。
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