有機分子・積層型構造・単一電子トンネリングといった材料・素子構成・量子学的現象を活用することにより、単一電子光メモリ素子の動作原理を確立することを目的としている。従来の単一電子素子では電子の輸送現象を外部電圧にて制御する素子となっていたが、光によって単一電子の輸送を制御する新規光電変換機能を実証する。このため光異性化反応を示すフォトクロミック分子をクーロンアイランドとして機能させ、光照射に対する酸化還元準位の変化を単一電子トンネリングの特性変化に変換した光電変換素子とする。本年度はその基礎的実験として基板表面上での分子の分散・集合形態の解析を走査型トンネル電子顕微鏡を用いて実施した。その結果、基板上での規則配列の形成原理の解明や形成過程の実空間リアルタイム観察に成功した。また走査型トンネル顕微鏡の探針を用いて単一分子へのトンネル電子注入とそこからの光子発生について実験を実施した。具体的には銅の単結晶基板の上に置かれたポルフィリン分子を光子発生源としている。ただしその分子・基板間にペリレン誘導体分子層を形成することによりトンネル二重接合を形成している。つまり基板-ペリレン分子層-ポルフィリン分子-トンネル接合-STM探針といった構成となっている。そこでトンネル電子注入により観察された発光スペクトルを分光測定したところ、ポルフィリン分子からの発光であることがわかった。すなわち単一分子とトンネル二重接合といった素子構成から電子-光子変換機能が発現することを実証できた。来年度はフォトクロミック分子を用いた同様の実験を試みる。
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