本年度は、費用フロンティアについての時間的な取り扱いについて、研究を行った。費用フロンティアを計測する上でのノンパラメトリックな方法にDEAがあるのだが、従来この方法では時間の取り扱いに理論的に不明な部分があることが指摘されていた。ここではFare and Gross kopf(1996)の動学的DEAの手法、とりわけその「基本的動学モデル」と呼ばれるものを独自に解釈する(具体的には、投入-産出から成る生産過程が連鎖すると考える)ことによって、長期と短期の費用フロンティアをそれぞれ導出することに成功した。この結果は、他の動学的DEAモデルとも整合性を持つことも判明した。 また、このモデルを用いてある産業(電気通信産業のうちの一分野)について、パネル・データ分析を実施し、興味深い結果を得ることが出来た。また、応用の可能性として、TFP計測(Marmquist指数によるもの)、動学的効率性と最適投資戦略についても言及している。 さて、このモデルにおいては生産過程を連鎖させる媒介項としての資本設備(これは中間投入要素であり、投入でも産出でもある)が重要な意味を持つ。従って、公益事業を含む設備産業の分析を行う上で、重要な分析手法を提供したことになる。これは次の二つの方向への研究を促すであろう。一つは過去の投資系列の効率性評価である。もう一つは未来の投資系列について最適投資系列を示すことである。しかし、後者に関しては市場の不確実性についての対処が必要となる。 過去の投資系列の評価においては、産出データは所与のものとしてある。この産出系列に対して投資系列の効率性を評価することが出来るのであるが、過去の時点においてはもちろん産出系列は投資の意思決定者にとっては未知であったということを考慮せずに、事後的な評価を行うことになる。しかし、未来の投資系列については、そもそも産出系列が投資の意思決定者ばかりではなく分析者にとっても未知である、という困難がある。そこで、需要が確率的に(ブラウン運動的に)変動するときの、最適な投資戦略の決定問題を解く必要がある。そこで次年度については需要の不確実性と費用フロンティアについての関連性に焦点を当てた分析を行う。 また、同時に産出量の予測が過去のデータ系列から乖離していくことになるので、DEAにおいて実行可能解の非存在という問題が発生するというおそれがある。この問題については、第一に費用効率性の上限値と下限値で挟み込むという方法が考えられる。第二に確率的DEA(S-DEA)について検討を行う必要がある。
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