研究概要 |
本研究の目的は、Baumol, Willig, Panzer(1982)等のContestable Market理論の枠組み(自然独占性の計測)を動学的DEAモデルにより表現するととともに、これと筆者の開発した代替性を含む通信需要モデルを統合することによって、IT社会の動態を産業組織論的に表現するシミュレータを開発することである。筆者はこれまで通信手段間の代替関係に着目した研究を行い、携帯電話、一般電話、PHS等を含む通信需要モデルの構築に成功している。また、供給側面においては、包絡分析法(DEA)を用いた自然独占性計測法を研究し、費用の劣加法性の概念に相当するサイズ効率性を計測するコンピュータ・プログラムを開発し、日本の携帯電話市場の分析に適用した。本研究では、(1)DEA分析プログラムの拡張による計算機シミュレーションの実施(需要変動が自然独占性に与える影響)、(2)費用構造モデルと需要モデルの連結、(3)現実の産業データを用いたシミュレータの実装を行う。 本研究の成果は以下のとおりである。(1)電気通信事業と類似性の高い電力事業について産業組織シミュレータの実装を行い、一定の成果を見た。すなわち、(a)料金等需要に影響を与える要素に関してはベクトル自己回帰モデルで予測を行い、需要関数自体については双方向コンダム効果モデルにより、地域的な変動要因と時間的な変動要因を分離することが出来た。(b)限界費用の推定に際しDEAを用い、その結果をtranslog費用関数の推定に併用し、推定結果の精度を増した。 (2)電気通信においては、国際的な観点が重要となりつつあることにも留意し、移動電話規格間の代替性を含む需要モデルの分析を行い、一定の成果を挙げることができた。
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