研究概要 |
本年度は,本研究最終年度として,リスクコミュニケーションの原理が,(1)リスクに関する当事者が相手に抱く不信感と(2)リスク認知のヒューリスティックを,(3)お互いの「共有知識」にすることであり,それによって,リスク管理に関する社会的合意形成を改善できることを証明した。(1)は,本研究初年度におけるBSEリスクに関するアンケート分析に基づくもので,リスクコミュニケーションが問題としてきた当事者間の情報ギャップには,心理学が従来から指摘してきた認知ギャップよりも,リスクに関する科学的判断やリスク管理者に対する信頼性の問題が大きいことを明らかにした。また,リスクコミュニケーションの経験則の検討を通じて,いかに当事者間に不信感を起こさず,お互いの信頼感を高めるかが経験則の関心の中心となっていることも指摘した。(2)は,第二年度におけるBSEリスクに関する直感的理解のパターン解析に基づくもので,この研究で,一般消費者のリスク認知が,行動経済学的なヒューリスティックによる理解となっており,お互いの認知パターンを認めあうことがコミュニケーションを機能させる前提であることを指摘した。(3)は,(1)(2)を前提としたコミュニケーションを,社会的合意形成の文脈で,Aumann(1976)の「共有知識」の定義を導入して定式化すると,リスクコミュニケーションを通じたお互いの懸念とヒューリスティックの共有知識化が,リスク管理や対策に関する合意形成を改善する可能性があることを証明したものである。本年度はさらに,これらの研究成果に沿って,メタボリック症候群に関するリスクコミュニケーションを題材に,補足的なアンケート調査も実施し,分析を加えた。
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