私たちは、これまで過去の南海地震の活動履歴を明らかにすることを目的として、西南日本太平洋沿岸域で津波堆積物の研究を行ってきた。特に高知県須崎市のただす池では、1300年前から4500年前までの過去3200年間に約14回の津波および地盤沈降によって示される地震イベントを確認しており、九州東部の大分県佐伯市米水津龍神池では、過去3500年間に8回の顕著な津波イベントを確認することができた。これらの研究から、南海地震には規模の大きなものと小さなものが存在し、巨大型の南海地震は350年程度に1回発生していることが明らかになってきた。本研究の目的は四国・九州太平洋沿岸域の堆積物中に記録された過去の南海地震の痕跡を探査し、より精度の高い南海地震の活動履歴を明らかにすることにある。 平成19年度については、昨年度の調査により過去2000年間に少なくとも3回の津波記録を残していることが明らかになった高知県土佐市蟹ヶ池にて追加調査を行った。バイブロコアリングによってコア試料を採取し、昨年度の試料と対比し、5試料について年代測定を行った。その結果、特に最新の津波イベントは宝永地震に対比できる可能性が高いことが分かった。まだ空間的にも深度的にも調査は十分とはいえないが、この蟹が池は龍神池、ただす池に続いて過去の南海地震の再来周期を検討することが可能な3つ目の地点になることが明らかになった。特に、蟹が池はただす池で残されていなかった最近千年間の記録を保持しており、歴史記録との対比が期待できることから、その価値は高い。 津波堆積物の研究では、何よりも精度のよい年代測定を数多く行うことが必要であり、本研究の経費の多くは放射性炭素年代測定のために使用した。
|