研究概要 |
中米・エルサルバドル共和国中部のイロパンゴ火山で4世紀ごろ生じた巨大噴火は、従来、当時のメソアメリカ社会に壊滅的な影響を与えたとされてきた。本研究は、この噴火の詳細を明らかにし、当該噴火が当時のメソアメリカ社会に与えた影響について再評価することを目的としている。 最終年度にあたる本年度は、次のような研究活動を行った。(1)ニカラグア西部での現地踏査を行い、当該噴火の降下火山灰の分布が軽微である(見出されない)ことを確認する一方、エルサルバドル中央部で、火山近傍の軽石流堆積物やレンパ川下流域の土石流堆積物(軽石流堆積物の再堆積物)についての補足的踏査を行った(9月、計約2週間)。(2)現地踏査で収集された試料の放射性炭素年代測定を行い、Dull(2001)が提起した、古典期初期頃という年代を支持する結果を得た。(3)国際火山及び地球内部協会2008年アイスランド大会(IAVCEI2008)において、ドイツおよびコスタリカの研究者との情報交換を行い、Kutterolf,et al.(2008)が火山近傍地域の堆積量を過大に評価している可能性が大きいことを確認した。 本年度および本年度までの2年間の調査研究により、イロパンゴ火山4世紀噴火で生じた降下テフラの分布は、Hart&Steen-MacIntyre(1983)が示した西方に厚い堆積とは異なり、むしろやや東よりの分布を示しながら、より広い地域に、また、全体に薄く拡がっていることが判明した。すなわち、降下テフラの堆積は、火山近傍を除く地域では比較的薄く、メソアメリカ社会が壊滅的な影響を受けた可能性は必ずしも大きいとはいえないことが明らかとなった。一方、大規模な軽石流が流下した火山から約10kmの範囲、ならびに、2次的に生じた土石流が流下したレンパ川下流域という、極めて限定された地域については、壊滅的な被害を被ったとみられる。
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