本研究は哺乳類における体細胞クローンにみられる種々の異常の原因と考えられる遺伝子発現の異常を検討し、核移値による体細胞クローンの作出における、いわゆるゲノムのエピジェネティックなリプログラミングの特徴を明らかにし、またマウスゲノムにおけるエピジェネティックな遺伝子発現の調節単位をゲノムワイドに明らかにすることを目的とする。これまで我々はDNAマイクロアレーを用いた解析で、ヤウス体細胞クローンでは外見上は正常に出生した個体の臓器においても多くの遺伝子発現に異常が認められることを明らかにした。また遺伝子発現の異常は個体ごと遺伝子ごとにばらついていることを明らかにし、さらにこの個体間での遺伝子発現の異常のばらつきのパターンを利用して、マウスのゲノム中に共通した遺伝子発現調節を受ける遺伝子クラスターが100カ所以上見いだされることを明らかにした。 本研究では新たに、隣接する遺伝子間での遺伝子発現プロフィールを用いて互いのPearson距離を計算してゲノム上にマッピングすることにより、このような遺伝子発現のパターンが共通するドメインを抽出することが可能であることを示し、簡便で汎用性のある手法として提案した。 また、出生時の臓器のみならず核移植によって作出された未分化幹細胞においても、インプリンティング遺伝子を含む遺伝子発現に核移植による変化が誘導されていることを示した。さらに、核移植による体細胞クローニングのみならず、種々の胚操作の過程が遺伝子発現プロフィールに影響を及ぼすことが明らかとなり、体細胞クローニングにおいて見いだされた遺伝子発現の変化がいくつかの要因の複合的な結果である可能性が示唆された。
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