ポリコーム遺伝子群(以下PcG)と)HP1分子をはじめとするヘテロクロマチン構成因子は、ともにショウジョウバエの変異体から同定されたクロマチン関連分子であり、タンパク複合体を形成して遺伝子発現を抑制的に制御する。この遺伝子発現抑制は細胞分裂後も維持され、クロマチンメモリーとして機能し、細胞の正常な分化・増殖に必須である。近年、申請者は、PcGの一つであるSU(Z)12が、PcGとヘテロクロマチン構成因子による2つのエピジェネティック遺伝子発現制御を機能的にリンクさせる重要な分子であることを報告した。SU(Z)12を中心とした転写制御機構をさらに詳細に解析する目的で、SU(Z)12と機能的に相互作用する分子を探索した。HP1分子との結合ドメイン(VEFSドメイン)を欠いたSU(Z)12をbaitとして、酵母2ハイブリッドスクリーニングを、HeLa細胞cDNAライブラリーを対象として実施し、プロテインメチロソーム複合体の構成因子であるMep50を同定した。騒ep50は6個のWDリピートを有する分子であり、SU(Z)12が、Mep50のC末側3個のWDリピートドメインと結合することを明らかにした。さらにMep50がヒストンH2Aと特異的に結合すること、プロテインアルギニンメチル化酵素の一つであるPRMT5と結合し、PRMT5による転写抑制を仲介する分子であることなどを明らかにした。これらのことから、SU(Z)12が、Mep50とPPRMT5による転写抑制に関連していることが示唆され、PcG複合体の一因子としての機能のみならず、他の転写抑制複合体の要素として機能している可能性が示された。さらに、SUZ12-EZH2複合体とE2F6の機能的相互作用を明らかにし、EZH2やSUZ12が種々の癌細胞で発現が増加していることから、発癌や癌転移の分子機序の一部にSUZ12-EZH2-E2F6が関わっている可能性が示唆され、新たな癌治療の標的となる分子経路の解明に繋がった。
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