本研究では質量分析法を中心とするプロテオミクス技術を基礎にして、生体内に存在するN-結合型糖タンパク質を大規模かつ系統的に同定すると同時に、動態を高効率に解析する定量的システムの開発を目指した。IGOT:糖鎖付加位置特異的安定同位体標識 ○定量的解析のための試料調製及び解析法の確立:定量には比較したい試料(糖)ペプチドに、質量値が異なる質量タグ(安定同位体標識)を導入する必要がある。このための戦略として、(1)ペプチド-N-グリカナーゼ(PNGase)を用いて糖鎖を切除する際、糖鎖付加ペプチドに溶媒(H_2^<18>O)中の^<18>Oを導入する酵素的方法、と(2)ペプチドのLys側鎖アミノ基と特異的に反応する試薬に予め安定同体標識し、化学反応によって導入する方法、の2つを考案し、それぞれLC/MS分析に至るまでの試料調製手順を検討した。 (1)酵素的方法:線虫抽出タンパク質を還元アルキル化後、トリプシン消化し、レクチン(ConA)を用いて糖ペプチドを精製した。これを等量ずつ2つに分け、一方を非標識の水で、他方を標識した水中でPNGase処理し、混合後、LC/MS分析した。糖鎖付加部位のAsn残基はAspに変換され、1マス質量が増加し、標識水中で処理したペプチドは^<18>Oを取り込み、さらに2マス、計3マス質量が増加する。この質量値のシフト及び質量差を指標にペプチドを解析した結果、約500ペプチドが同定され、その比は0.8+/-0.14となり、大規模定量分析が可能であることが示された。現在解析は手作業で、非常に煩雑なので、自動化プログラムの開発を要する。 (2)化学的方法:同様に精製した糖ペプチドを等量ずつ2つに分け、一方を非標識のO-メチルイソウレア(MIU)で、他方を^<13>C/^<15>N二重標識したMIU(3Da増加)で修飾し、反応後、混合した。過剰の試薬を逆相LCで除去し、さらにH_2^<18>O中でPNGase処理後、LC/MS分析した。その結果、約150ペプチドが同定され、相対値は0.98+/-0.2で定量できた。解析は自動化されているが、スペクトル解析アルゴリズムの導入が望まれる。
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