研究概要 |
本研究では今年度、質量分析法を基礎としたプロテオミクス技術による糖タンパク質の同定を、より高感度かつ大規模に実施する方法の確立を目指して以下の研究を行った。これまでの同定法は、生体試料から抽出したタンパク質混合物を分離することなくトリプシン消化し、この消化物よりレクチンカラムで捕集した糖ペプチドを、安定同位体標識水(H_2^<18>O)中でPNGase処理した後、LC/MS^2法で分析、同定するものであった。この手順において、タンパク質の不完全な消化はペプチドの複雑性を増加させ、個々のペプチドの量を減少させるため、はじめにタンパク質を効率よく消化する条件を検討した。グアニジン存在下でのアルキル化の後、変性剤を尿素に置換し、希釈後消化することにより、SDSゲル電気泳動での不完全消化物によると思われるスメアなバンドは消失し、消化効率が改善されたことを確認した。一方、ペプチド同定は衝突誘起解離(CID)法で得たMS^2スペクトル情報を元に行っているが、高感度化を目的に精密質量-保持時間(AMT)タグ法による同定を試みた。これまでに実施したマウス肝臓糖ペプチドの大規模同定研究では、1,625ペプチドについて遺伝子ID、アミノ酸配列、ペプチドに生じた修飾の部位及び種類、観測された質量電荷比、及び価数の情報がリスト化されている。これらの質量を相互に比較し、質量データ情報のみからペプチドを同定できるか等を検討した結果、本研究グループが所有する分析装置の誤差(50ppm)を考慮すると、1,116ペプチド(全体の69%)が同定可能であることが判明した。これらの改良による高感度化の程度は、濃度条件や保持時間の寄与の検討が未実施であり、今後の課題として残ったが、この方法に昨年度開発した安定同位体標識法を併用することで、疾患バイオマーカー探索のための比較分析、たとえばガン患者血清と健常者血清での、糖ペプチドコアの同定及び相対定量分析が感度よく、また大規模に実施できる可能性が示された。
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