研究概要 |
中枢神経系や内分泌系により中央集権的に各細胞を統御している動物に対し、植物では、各細胞が独立性を保ちながら集合して個体を形成している。また植物は、動物のように自由に移動できないため、そのぶん個々の細胞自身が柔軟な環境適応能力を有している。例えば植物は、障害を与える病原微生物の攻撃に対し植物は細胞レベルでの抗菌性二次代謝産物(ファイトアレキシン)の生産や、過敏感反応等によって個体を守っている。これは、神経系や免疫系を使用する動物とはまったく異なった防御戦略である。ところで、植物細胞の機能的独立性はこれまで、表皮細胞中の孔辺細胞のように、主に形態学上の違いから論じられてきたが、環境応答の際には個々の細胞に形態上の違いでは区別できない、代謝レベルでの機能差異が生じていることが予想される。一方、従来の植物環境応答研究では主に、個体全体や、組織レベルでの代謝変動や遺伝子発現パターンの追跡に終始しており、個々の細胞で生じている応答のいわば"静的な平均"しか見てこなかった。しかし、上記の点を鑑みるとメカニズムの全容を捉えるには、一細胞に基礎を置き遺伝子発現を含めた代謝産物の様態を正確に把握することが必要である。本研究では、人工的に感染応答および、物理的損傷応答反応を誘起した細胞および、周辺細胞からレーザーマクロサンプリングを用いて代謝産物を取得し、これをNano Flow ESIMS、および、微量PCR解析、顕微分光分析に供して得られた情報の多変量解析を通じたクラスタリングによって、代謝の差異を視覚化し、細胞に動的機能分化が生じていく様子を捉えることを目的としている。H18年度は,主に、物理的障害のモデル系として、エキシマレーザーにより、細胞壁損傷を生じさせ、その際生じる障害応答を関連遺伝子のプロモーター活性を指標に調査した。また、燕麦(Avena sativa)にレーザー植物細胞操作技術を用いて、特定細胞感染処理を行い、組織中の様々な細胞から細胞内液をサンプリングして,Nanoflow ESI-MSを用いてファイトアレキシンの分析を行う方法を確立した。
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