海洋天然物ラメラリンDは、種々のがん細胞に対しで、強い細胞毒性を示す。また悪性度の高い多剤耐性がん細胞に対しても有効である。その主要な作用機序は、臨床で用いられているカンプトテシン系抗がん剤の分子標的であるトポイソメラーゼIの阻害である。分子動力学シミュレーションにより得られたトポイソメラーゼI-DNA-ラメラリンD三元複合体モデルに基づき、実用化の可能性のあるラメラリンアナローグとして1-デアリールラメラリンDおよび1位置換1-デアリールラメラリンDを分子設計した。昨年度、N-ベンゼンスルホニル-3-ブロモピロールを出発物質とする8段階での1-デアリールラメラリンDの合成に成功した。また、1-デアリールラメラリンDの保護前駆体の求電子置換反応が、1位で選択的に進行する事を見いだした。 今年度は、1位置換体の合成法の拡張を目的として、O-保護-1-ブロモ-1-デアリールラメラリンDと種々のボロン酸誘導体のパラジウム触媒クロスカップリング反応(鈴木・宮浦反応)を試みた。その結果、基質の立体障害のため通常の条件ではカップリング生成物は得られなかったが、CsF-Ag_2Oを添加剤とする条件下、高収率で目的物が得られることを見いだした。また、N-ベンゼンスルホニル-3、4-ジブロモピロールを出発物質とするラメラリンO、P、Q、Rの効率的な合成法の開発にも成功した。 今回分子設計・合成したラメラリンアナローグについては、文部科学省がん特定領域研究化学療法情報支援班に総合的な抗がん活性の評価を依頼中である。研究代表者らによるHela細胞を用いたMTTアッセイの結果では、1-デアリールラメラリンDは、天然物ラメラリンDと同等の活性を示す事が明らかになっている。
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