スフィンゴ脂質は細胞膜におけるラフトの形成、異細胞認識、アポトーシス、細胞増殖などに関与し大きな注目を集めている。本研究は、スフィンゴ脂質の挙動解析に向けた有機合成化学からのアプローチとして、効果的なツール分子の創製、効率よい合成法の確立、十分な量の供給を目的としている。本年度は以下の成果を上げることが出来た。すなわちまず、効率よい合成法の確立を目指して、スフィンゴ脂質主鎖のトランスオレフィン部で切断し2つのセグメントに分け、この両者をそれぞれ独立に合成し、それらを組み合わせて多様な望むスフィンゴ脂質の合成を計画した。検討の結果、(1)オレフィンクロスメタセシスを用いることにより、炭素鎖の異なる誘導体を始めとし、多様なスフィンゴ脂質に対する合成法を確立した。次いで、(2)メタセシスの原料となる両セグメントの合成法を確立した。特に、ホスホコリンを持つアミノアルコール部に対して、セリンを原料とし高立体選択的なケトンの還元を含む合成ルートを確立した。そこでこれらの合成法を用いて、(3)代表的な天然のスフィンゴ脂質である、スフィンゴシン、セラミド、スフィンゴシン1-リン酸、スフィンゴミエリンの効率よい合成を、開発した共通の方法により達成した。また、(4)主鎖末端に蛍光標識基を組み込んだスフィンゴシン1-リン酸(S1-P)の合成に成功した。これの細胞内挙動が研究協力者によって検討された結果、開発した蛍光標識化S1-Pは本来の基質であるS1-Pと同様に認識されることが明らかになった。さらに、(5)蛍光標識化S1-Pにおいて、加水分解されるリン酸エステルの酸素原子をCH_2に置き換えた類縁体の合成にも成功した。この合成品は、先に開発した分子同様、細胞に対して基質と同様に認識されることが研究協力者によって確かめられ、魅力的なツール分子として大いに期待されている。
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