今年度はアルゼンチンとウルグアイでインタビューと資料収集を行った。その結果、 最高裁判決の法律的位置づけに関しては、アルゼンチン最高裁では、免責法無効判決以前に、ナチス戦犯引渡しをめぐる人道犯罪への時効不適用判決・米州人権裁判所ペルー免責法無効判決の援用等、国際人権法の進展を反映した判決が出ており、免責法無効もそれらの延長線上にあることが現地法律実務家団体の先行研究から明らかになった。 アルゼンチンの軍政をめぐる歴史的記憶と無効判決の関係については、「記憶」関連のNGOの設立時期や活動内容、文献の出版状況等から、判決は変化をもたらすというより、軍政をめぐる記憶の活性化が無効判決の追い風となる世論を作ったと判断できる。もちろん、判決が後述の「二つの悪魔」説を否定する材料となるのは疑いない。 ウルグアイへの影響については、(1)9月から始まった失効法無効を求める国民投票のための署名運動(現地調査最終日に発足集会があった)に、アルゼンチンの判決は「アルゼンチンでできたのだから、ウルグアイでも」というプラスの効果をもたらす(ウルグアイSERPAJメンバーの分析)(2)ウルグアイで歴史的記憶の問題がようやく表面化したのも、判決が引き渡し要求という形の圧力になったことが一因と思われる(最大のインパクトはヘルマン事件)。バスケス大統領は本年の6月20日(英雄アルティガスの誕生日)をはじめて「ヌンカ・マスの日」として「国民和解」を演出する儀式を行ったが、SERPAJのメンバーはこれを「二つの悪魔」説(軍もゲリラも悪かった)に基づくと批判。歴史的記憶の問題は、(失効法の是非も含む)訴追問題と並んで、ウルグアイにおける今後の重要争点と予測される。等が明らかになった。
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