本年度は、まず昨年度までの成果とりまとめと理論枠組み、方法論などの見直しを踏まえて、海外現地調査を実施している。研究代表者により主としてマレー系トランスナショナルな地域的広がりと「パンチャシラ」の「域内原理」としての可能性をさらに検証するため、ASEAN関連史資料、さらに国際戦略問題研究センターの新聞クリッピングなどを収集・分析を昨年度に引き続き継続した。その分析考察により、「マフィリンド」のトランスナショナルな性格が有する潜在的可能性と限界、戦後東南アジアの地域統合プロセスにおける日本のいくつかの対東南アジアドクトリン・構想などの影響評価などについて、実証的な分析を継続中である。また一方分担者は「国民統合原理」としての「パンチャシラ」の再位置づけの一環として、その歴史的再検証と実証的現状分析を実施、具体的には教科書、博物館等の公教育・社会教育現場における「パンチャシラ」の位置づけの変遷を、国軍関係を含む博物館などの展示の分析を中心に調査、文献調査に基づき現在の教科書改訂問題にも焦点をあてつつ、スカルノ、スハルト時代を経て、ポスト・ユドヨノをにらんだ現在の混迷的かつ過渡的な「国学」状況の考察を継続している。このような現地調査とその成果の分析考察をもとに、中間成果公開と国際的研究交流の一環として研究代表者らは当該年度末の3月、連携研究機関との共同で国際セミナーを実施、研究者、学生、市民を対象にこれまでの調査成果を発表、現地研究者との意見交換を実施している。なお本セミナーは日本=インドネシア国交50周年という節目の年でもあることを踏まえ、現地連携研究者の要望を受けてインドネシアの「国家形成」、「国民統合」に対する日本の影響、さらに戦中および戦後冷戦下における東南アジア地域統合の試みに対する日本や周辺各国の対東南アジア政策の実態などについて焦点をあてた報告がなされた。
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