ラテンアメリカの第二次大戦後の教育発展は、世界的な「開発」潮流を背景に活発に進められてきた。その最大の推進者はアメリカ合衆国である。ラテンアメリカ諸国の教育は、開発援助の枠組みと、各国の教育構造や政治事情との相互関係の中で形成されてきたと言える。 ブラジルの現在の教育改革は、1980年代以降、国家としての経済的な新自由主義を背景としながらも、教育独自の性質をふまえ、民主化を背景とした基礎教育重視の方向をとってきた。その改革内容は、教育財政の改革、教育内容の基準明確化、地方分権化、学校運営の民主化を主要な内容とする。教育財政に関しては、州ごとのFUNDEF(初等教育振興基金)の設置による資金分配の仕組みを確立した。これは教育基盤整備に充てられると同時に在籍人数に応じた分配によって就学率を拡大させた。この仕組みはFUNDEB(基礎教育振興基金)として中等教育にも拡大された。1995年には教育内容の基準が明示されSAEB(基礎教育評価制度)が導入されている。地方分権化は初等教育が主であるが、州から市への運営移行が進んでいる。分権化が遅れていたサンパウロ州でも1990年代に急速に進められた。学校運営については学校評議会が組織され、政治の仕組みとしてだけではない、社会生活における民主化の進展が試されている。その動きにはいまだ揺れがあるが、ブラジル教育の民主化は徐々に進んでいる。 こうした動きを第二次大戦以降という中期的なタイムスパンで眺めてみると、経済成長重視の開発を国是とし、技能形成を目標とした労働者養成中心の教育から、基礎学力を備えた市民育成中心の教育に変わってきたという大きな傾向を捉えることができる。教育改革は明らかに開発パラダイムに規定されつつ形成されているが、単に後を追うだけでなく、その国独自の方法で実施されている。今後は、労働者養成から市民育成への変化について開発援助側の変化だけでなく、ブラジル国内のいかなる運動や主張が、それをもたらすのに貢献したかをさらに見ていきたい。
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