本年は、国際教育協力の対象としてのラテンアメリカ地域、特にブラジルを中心として基礎教育の現状を把握すること、及び日本との関係を検証することを目標とし、学会、書籍、論文などで現時点での成果を複数発表することができた。 まず第一に、ブラジルの教育開発思想の展開を、ブラジルの近代化との関係において歴史的に跡づけることを試みた。プレインダストリアル段階を経て、20世紀初めからの工業基盤の形成期、1930年代以降の産業化と都市化の進展、という過程のなかで、特1950-1960年代におけるジュセリーノ・クビチェック、ジャニオ・クアドロス、両大統領の開発主義と軍事政権期の開発主義の特徴をとりあげ、それが教育政策に影響を与えていることを指摘した。 第二に、ブラジルの初等教育の地方分権化について、サンパウロ州の事例を分析した。 第三に、ブラジルの職業技術教育が開発目的と進学目的との間で揺れ動いてきたことを分析し、ブラジル開発政策における職業技術教育の重要性を指摘した。 ほかに、本研究の背景的知識を得るため、ブラジルを中心に、ラテンアメリカの学力問題について、国際学力調査やブラジルでの研究成果をもとに分析した。また、多元的な文化を有するラテンアメリカ社会において重要問題である言語について、各国の二言語教育政策を概観し、その特徴と動向を分析した。ブラジルは開発思想の影業を受けながらも国内要因によって独自の教育開発経路を辿りつつあり、教育開発のユニークな先例とてさらなる探究が必要である。
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